病ンデル童話選2「ヘンゼルとグレーテル」
「魔女」に魅入られた、憐れな少年の独り言。
男性=ヘンゼル、魔女・グレーテル=女性の2人劇を想定してますが、3人で演じても、1人で演じても楽しいかと思います。
キャラクターの基本モチーフは「ヘンゼルとグレーテル」ですが、年齢性別はお好きなように設定してください。
グロ・サイコ・殺人・厨二病要素満載ですのでご注意。
【形態】朗読劇
【上演時間】約10~15分程度
【登場人物】
・ヘンゼル
妹思いの兄
・グレーテル
兄が大好きな妹
・魔女
魔女の森の奥に住む妖艶な女
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ヘンゼル:僕の名前はヘンゼル。妹の名前はグレーテル。
ヘンゼル:本当のお母さんはとっくの昔に死んでしまって、今の母親は最近父さんが連れて来た。
(一呼吸置く)
ヘンゼル:父さんはまるであの女の奴隷だ。
ヘンゼル:だから僕は意地悪な継母から可愛い妹を守らなければいけない。
ヘンゼル:そしてお父さんの目を覚まさせなければならない。
ヘンゼル:でも・・・父さんは僕達を裏切った。
父:「あいつには俺にしかいないんだ。ヘンゼル、おまえも男なら・・・いつかは分かるよ」
ヘンゼル:そう力無く笑って・・・あの女の言いつけ通りに、僕達を深くて暗い魔女の森に捨てた。
グレーテル:「もう私達、おしまいね」
ヘンゼル:月すらも無い、暗闇の中。狼の遠吠えに震えながら泣きじゃくるグレーテルを僕は抱きしめる。
ヘンゼル:「心配しないで、グレーテル。すぐになんとかする方法を見つけるよ」
グレーテル:「でも、これからどうやって森を出るの?」
ヘンゼル:「大丈夫。神様は僕たちを見捨てたりはしないさ」
ヘンゼル:僕達は抱き合って眠り、そして祈った。
ヘンゼル:ああ、神様。貴方が本当にいるのならば・・・どうか、僕達を助けてください。
ヘンゼル:せめて僕の大切な妹だけでも助けてください。
ヘンゼル:猟師か、騎士様か、それとも優しい夫婦か・・・誰でも良い。どうか哀れな僕達に助けの手を差し伸べてください。
(一呼吸置く)
ヘンゼル:けれども何日経っても、誰も・・・僕達の前に現れなかった。
ヘンゼル:空腹と疲労と絶望で死にそうになった、そんな時に僕達の前に飛び込んできたのは――小さな家。
グレーテル:「・・・なんて美味しそうなおうちなのかしら」
ヘンゼル:その家は普通の家じゃなかった。屋根はパン、壁はケーキ、煉瓦はクッキー。そして、窓は飴細工の――お菓子の家だった。
ヘンゼル:「ああ・・・我慢できないっ!」
ヘンゼル:パンの屋根を一口頬張ると僕は叫んだ。
ヘンゼル:「・・・おいしい! グレーテル、お前は窓を食べてごらん、すごく甘いよ」
グレーテル:「本当だわ! ほっぺがとろけて落ちちゃいそう・・・」
ヘンゼル:必死に手を伸ばして屋根を食べ、グレーテルは窓にかがんでガラスをかじる。
ヘンゼル:僕達は家の中から女が現れた事に気付かないくらい、目の前のお菓子に夢中だった。
魔女:「・・・おや、あんた達、どうしてここに来たんだい? さあさ、お入り、私の家においで」
ヘンゼル:女は僕達の手をとり、小さな家の中に案内する。
ヘンゼル:テーブルにはミルクと砂糖がたっぷりかかったパンケーキと香りの良い葡萄酒に果物や木の実、鳥の丸焼き・・・見た事のも無いご馳走の数々が並んでいた。そして清潔できれいな白いシーツでおおわれた可愛い2つのベッド。
ヘンゼル:僕とグレーテルは天国にいる気分だった・・・この時までは。
(一呼吸置く)
ヘンゼル:女の正体は性悪な魔女だったのだ。
ヘンゼル:森の奥ににお菓子の家を建て、僕達の様な捨てられた子供たちを誘い、そして・・・その子供を「食べる」恐ろしい魔女。
(一呼吸置く)
魔女:「・・・ああ・・・美味しい。おまえのような、若い子は・・・私の素敵なご馳走だよ」
ヘンゼル:魔女は赤い唇を舐めるとそう言って僕の体に舌を這わせ、僕を飽きるまで・・・貪り(むさぼり)食べる。
ヘンゼル:それから魔女は僕を部屋に閉じ込め、カギを掛けた。
魔女:「ヘンゼルはわたしのものだ・・・残念だね、グレーテル」
ヘンゼル:扉の向こうで魔女の意地悪い笑い声が響く。
ヘンゼル:けれどもグレーテルの声は聞こえなかった。
ヘンゼル:それから毎晩、魔女は鍵の掛かった僕の部屋を訪れ、僕の指を、顔を、全身を・・・満足するまで美味しそうに食べていた。頭のてっぺんから、足の先まで全て余すところなく、全部。
(一呼吸置く)
ヘンゼル:だけど、ある日。
グレーテル:「ヘンゼルっ! 私達、助かったわ!」
ヘンゼル:勢い良く扉が開くと、息を弾ませ、頬をバラ色に染めたグレーテルが部屋に飛び込んできた。
グレーテル:「魔女をかまどの中に押して、鉄の戸を締めて、かんぬきをかけて・・・火をくべたのよ。魔女はとても恐ろしい叫び声をあげたわ。そして、かまどの中でみじめに焼け死んだ!」
ヘンゼル:「焼け・・・死んだ? グレーテルが、殺したのか?」
グレーテル:「ええ、そうよ! ・・・ふふ、いい気味だわ。お兄ちゃんを独り占めしようとした罰よ!」
ヘンゼル:魔女を殺した事を誇らしげに語り、僕に抱き付き、歓喜のキスをするグレーテル。
ヘンゼル:そこには泣き虫で気が弱くて恥ずかしがり屋の、かつてのグレーテルの面影はどこにもなかった。
ヘンゼル:――彼女は、本当に僕の妹のグレーテルなのだろうか?
ヘンゼル:「・・・とにかく。魔女が死んだのなら・・・それなら・・・帰らなくちゃ」
グレーテル:「帰る? どこへ?」
ヘンゼル:「決まっているだろ。魔女の森を抜けて、僕達の家に・・・」
ヘンゼル:僕の言葉にグレーテルは笑う。
グレーテル:「何を言っているの、お兄ちゃん。ここが、私達の家よ――私とヘンゼルの、ふたりだけの家」
ヘンゼル:その時。
ヘンゼル:僕は、気付いてしまった。
ヘンゼル:グレーテルの僕を見る目が、魔女の目と同じ事を。
ヘンゼル:そして、僕はもう一人の新しい魔女に魅入られてしまったことを。
(一呼吸置く)
ヘンゼル:暗くて深い魔女の森。
ヘンゼル:僕達はこの森を抜けられなかった。
ヘンゼル:僕達は・・・お菓子の家の甘い蜜に溺れて身動きが取れないまま、死んでいく。
ヘンゼル:こうして僕は魔女と共に、朽ち果てる。
父:「あいつには俺にしかいないんだ。ヘンゼル、おまえも男なら・・・いつかは分かるよ」
ヘンゼル:ああ、そうだね。
ヘンゼル:僕もお父さんと同じだ。
ヘンゼル:僕も・・・もう、「魔女」から逃げられない。
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【終】
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