シナリオ

Happy Halloween!

「え? ジャック・オー・ランタンをご存じない?」


ハロウィンの夜向けの独り芝居。

5分も無い短いシナリオですが、悪魔や悪霊が闊歩する今宵のお供に是非どうぞ。

性別不問、人称変更、アドリブ、セリフ改変どうぞご自由に。

お好きなように解釈して思いのままに演技して頂ければ幸いです。


【形態】独り芝居


【上演時間】約5分程度


【登場人物】

・A

性別不問。

観客である「あなた」に語り掛ける。

​――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(A、誰かと話している)

A:・・・そういや、ハロウィンなんて行事が流行だしたのは最近ですね。

A:ジャック・オー・ランタンも今じゃ当たり前のように、いろんな店先に並ぶようになりましたし。

(対話相手はジャック・オー・ランタンを知らないらしい。Aは驚いたように)

A:・・・え? ジャック・オー・ランタンをご存じない? よく見かけるでしょ。

A:ほら、あの・・・不気味な顔の、カボチャの事ですよ。

(一呼吸置く)

A:はあ、やっぱりご存じない・・・良いでしょう。それでは私がジャック・オー・ランタンがなんたるかをお教えいたしましょう。

A:いえいえ、遠慮なさらず。ここであなたと知り合ったのも何かの縁ですしね。

(一呼吸置く)

A:ジャック・オー・ランタン。

A:このハロウィンに欠かせないカボチャはアイルランドのとある物語の主人公なんです。

A:あるところに悪事ばかり働いていたジャックという詐欺師の男がいましてね。

A:彼は生前、自分の魂を狙った悪魔と「死んでも地獄に落とさない」という契約をうまい具合に結んだんです。

A:つまりは、悪魔を騙したんですよ。

(一呼吸置く)

A:悪魔を騙すなんて、なかなか図太い男でしょ?

A:でも、ジャックは根っからの悪人でしたが・・・間抜けな男でもあったんですよ。

A:ジャックの魂は地獄に落ちなくなりましたが・・・生前の悪い行いから、天国にも行けない。

A:だからジャックは死んだら、魂の行き場を無くしてしまうんです。

A:で、彼がそれに気付いたのは死んだ後と言う、後の祭り。

A:そんなわけで死後行き場を失い、亡霊となったジャックは・・・子供たちが不気味な表情をくり抜いたカブの中を自分の居場所と定めるしかなかった。

A:そしてカブを被り、今も天国と地獄の狭間である、現世を彷徨い続けているんですよ。

A:自分の辿り着く場所を探して、ね。

(一呼吸置く)

A:え? カブじゃなくてカボチャだろうって?

A:実はね、アメリカにこの伝承が伝わった時、カブよりもカボチャの方が手に入りやすいからって、カボチャで代用したんですよ。

A:で、アメリカナイズされたハロウィンが日本に伝わり、定着したと。

A:こういう伝承って言うのも、流れ流れて、形を変え姿を変え、その世の中の都合の良いものへと言い伝えられていくんでしょうね。

A:そうそう、形と意味を変えた伝承と言えば・・・ここだけの話ですよ。

(含ませるようにトーンを落とす)

A:――本当はハロウィンっていうのは、悪魔を崇拝するための祭りなんです。

A:悪魔を崇め、死霊を呼び覚まし、悪霊へと進化させ、生贄を捧げる祭り。

A:盗みや殺しを褒め称える、血と呪いにまみれた・・・残酷な謝肉祭(カーニバル)

A:さっきも言ったでしょう?

A:伝承なんて後世に伝える際に都合良く歪曲(わいきょく)されたものだって。

(一転、明るい雰囲気で)

A:・・・なーんてね。信じるも信じないも、あなた次第ですけど。

A:まあまあ、そんな顔しないで。ちょっとしたジョークですよ。

A:それに・・・

A:私達は「仲間」じゃありませんか。

(一呼吸置く)

A:私達は・・・ジャックと同じく、「天国にも地獄にも行けない」狭間の魂なのですから。

(一呼吸置く)

A:――いやあ、本当に良い時代になりましたね。

A:こんなにハロウィンが定着したおかげで、ジャック・オー・ランタンに困りませんもの。

A:狭いながらも楽しい我が家ってね。

A:それでは、HAppy HAlloween!

A:今年も互いに楽しいハロウィンを過ごしましょう!

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【終】

「弊社ではゾンビの皆様の人権を尊重し、生きている人間と同じ平等の権利を保障しております」

ゾンビウィルスが蔓延し、人間が死後0.001%の確率でゾンビ化してしまうのが日常となった世界。

そんな世界のある保険会社の外交員の会話のブラックコメディ。

性別不問、一人称変更、アドリブ、セリフ改変どうぞご自由に。

お好きなように解釈して思いのままに演技して頂ければ幸いです。



【形態】二人芝居


【上演時間】約15~20分程度


【登場人物】

■保険外交員A

真面目で皮肉屋。保険外交員Bの先輩・男性

※セリフの一人称はお客様に対して「私」、Bに対しては「俺」ですが女性で演じる時は「私」に変えても問題ありません。

■保険外交員B

あまり物事を深く考えない今どきの明るい子。保険外交員Aの後輩・女性

​※セリフの一人称は「私」ですが女性で演じる時は「俺」に変えても問題ありません。


※どちらも性別不問

​――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(ト書き――保健会社の営業部。社員2人が電話で話している。話す相手はそれぞれ別の相手だが話す内容はほぼ一緒、交互にセリフをテンポ良く話していく)


保険外交員A:はい! 大変お待たせいたしました・・・はい、つまりお客様は・・・最近お亡くなられた、ゾンビという事ですね。

保険外交員B:このたびはご愁傷様でした。ただそうなると・・・保険金は難しいですね。弊社の規定では、ゾンビの皆様は適用外でして。え? 話が違う?

保険外交員A:でも「死亡保険」とは生きている人間でなく、死んだ人間だけ適用するものですよ?

保険外交員B:死んでいる、って? はは、ご冗談を。

保険外交員A:だって・・・こうして私と話しているという事は、生きている証拠じゃないですか。え? 体は死んでいる?

保険外交員B:まあ、確かにそうですけどね。今は死後硬直やドライアイスなんかでかちんこちんですが、そのうちお身体はぐんにゃり、皮膚は腐り落ち、異臭を放ち・・・もって2~3年ってとこですかね。

保険外交員A:ああ、そんなに怖がらないで。ご安心ください、ゾンビは朽ち果てながらだんだんと自我が無くなるそうですよ。そして、ボロボロになって体も意識も土に還る。

保険外交員B:つまりは意識が無い状態での消滅なんで、恐怖心はきっとゼロ。いや~、自然の摂理って感じですねっ!

保険外交員A:まあ・・・なかには少しでも長く生きたい、状態を保ちたいとエンバーミングをされるゾンビの方も少なくはないですけどね。

保険外交員B:でも、メンテナンスも必要だし・・・何よりも高額です。掛かる費用はエステや美容整形の非じゃないですよ。

保険外交員A:それを受けたいから保険金が欲しい? 戸籍上は死んだままだし、死亡届もあるから保険金は下りるだろって? ははっ、いえいえ、下りませんよ。

保険外交員B:弊社ではゾンビの皆様の人権を尊重し、生きている人間と同じ平等の権利を保障しておりますので!

保険外交員A:ですので・・・再三お伝えしている通り、ゾンビの皆様には死亡保険は適用されません。

保険外交員A:第一お客様はこうして私と意思の疎通をしているじゃないですか・・・普通の人間と変わらずに、ね。

保険外交員B:なので当保険会社はあなたを「生きている」と判断し、死亡保険の支払いを

保険外交員A、保険外交員B:いっさい拒否します!

保険外交員B:では入院保険? ふふっ、どこも怪我も病気もしていないし、これからもする予定はないじゃないですか? だってお身体は死んでいるんですから。

保険外交員A:そもそも感染衛生上の観点からゾンビが病院に入院するどころか、立ち入る事すら出来ないのが現状です。

保険外交員B:え? 裁判をする? 良いですよ、でも裁判が決着するよりもお客様の遺体・・・いいえ、お身体が痛むのが早いと思いますけどね~

保険外交員A:弊社が生きる権利を認めない? いえいえ、ちゃんと認めていますからお支払いが出来ないと言っているんですよ。

保険外交員B:確かに死亡届を提出してしまうと会社に復職出来ませんし、年金も生活保護も出ませんから蓄えが無い人は大変だと思いますけど~

保険外交員A:生活が不安だというのであれば、ゾンビ経済特区への引っ越しをご検討するのはいかがでしょう?

保険外交員B:政府の用意したゾンビのためのゾンビ経済特区! そこでならゾンビでも就学・就業が可能で生前のような送る事が出来ますよ。

保険外交員A:・・・と言っても最低限の生活を、ですけどね。

保険外交員B:でも、引っ越したらちゃんとゾンビ手当はでますよっ!

保険外交員A:まあ、雀の涙ほどですけどね。

保険外交員B:きっと、仕事もありますよ!

保険外交員A:肉体労働や劇薬取り扱いなんかの普通の人間じゃ出来ないような激務ばかり。キツイキタナイキケンシヌの3K(サンケー)ならぬ、3K1S(サンケーイチエス)ですけどね。

保険外交員B:ま、お客様ならきっと、大丈夫ですって。

保険外交員A:こんなことなら生き返らなければ良かった? そんな事おっしゃらないでください。知ってます? 死後、人間がゾンビ化する確率。

保険外交員B:なんと0.001%! 1000人に1人の確率なんですよ! それって、すごくないですかぁ?・・・え? じゃあ、おまえもゾンビになりたいかって? あは、あはは・・・ご冗談を。

保険外交員A:とにかく! 弊社ではゾンビになってしまった被保険者様には一切の保険金はお支払いしませんのでご了承ください。

保険外交員B:・・・どうしました? そんなに大声で泣き始めて。・・・ゾンビになんてなりたくなかった? ・・・死にたい、ですか?

保険外交員A:だったら・・・自ら死を選ぶ事をおすすめしますよ。

保険外交員B:そんなの薦めるなんておまえは人間か! と言われましても・・・はい、お客様と違って人間ですよ。それにゾンビの皆様の自殺は「合法」なんです。

保険外交員A:ゾンビにも「死ぬ権利」があると法律で認められてますからね。

保険外交員A:ま、どちらにしろ、発作を抑える薬の服用は忘れないでくださいね。

保険外交員B:アレを飲まないと人を襲う様になっちゃいますから。そしたら朽ち果てる前にあっさり処分されちゃいますからね~。

保険外交員A:それでは、ご愁傷さまでした。

保険外交員B:良き第二の人生を~!

(ト書き――同時に電話を切る2人。やれやれと言った風情でため息を付く)

保険外交員A:ふぅ・・・。やっと終わった。

保険外交員B:今日も長かったですね~

保険外交員A:ゾンビになっても人間と同じ権利を求めるなんて・・・傲慢というか、強欲というか。

保険外交員B:最後まで人間らしく生きていたいって思っちゃうんでしょうかねえ~

保険外交員A:人間らしくねえ・・・悪臭と腐肉を不快を周囲にまき散らしながら? フン、おぞましい。死体に金を払うつもりなんて1ミリもないね。それに・・・

保険外交員B:それに?

保険外交員A:もし俺がゾンビになったら、その場で潔く死を選ぶ。

保険外交員B:はは、それ、先輩の口癖ですもんね。

保険外交員A:当然だろ。恥をさらしてまで生きようとは思わないし。それに、死人は人間に迷惑を掛けるべきじゃない。

保険外交員B:じゃあ・・・――はい、どうぞ、先輩。

保険外交員A:なんだ、これ?

(ト書き――保険外交員A、保険外交員Bに手渡されたものを見て驚く)

保険外交員A:・・・拳、銃?

保険外交員B:ほら、先輩。最近調子が悪いって言ってたじゃないですか。

保険外交員A:ああ・・・確かに会社に健康診断の受診をすすめられて受けてきたが・・・でも、それとこの拳銃と、何が関係あるんだ?

保険外交員B:私、さっき偶然聞いちゃったんです。人事に届いた先輩の診断の結果。

保険外交員A:診断結果?

保険外交員B:――先輩、発症しているそうですよ。ゾンビ症候群。

保険外交員A:え・・・? いや、そんな・・・確かに、体調は悪かったけど・・・でも――

保険外交員B:ゾンビになったら潔く死ぬ、って言ってたじゃないですか。ほら。頭を打てば確実に死ねますよ。

保険外交員A:う、撃てるわけ無いだろっ!

保険外交員B:ええ、今更? ・・・うーん、仕方ないなぁ、まあ先輩には生前お世話になってましたしね。ソレ、貸してください。

保険外交員A:何を、言ってるんだ? お、おいっ!

(ト書き――保険外交員B、保険外交員Aに渡した拳銃を取り上げる)

保険外交員B:何って、手伝ってあげるんですよ。

保険外交員A:て、手伝うって・・・ちょ、ちょっと待っ・・・

保険外交員B:安心してください。ゾンビになって周りに迷惑を掛けてるくらいなら潔く死ぬ、って先輩が自分で撃ったって証言しますから。死んだ先輩の面子を保つ・・・私って良い後輩だと思いません?

保険外交員A:・・・おまえ、さっきから何を言ってるんだ? は・・・何かの間違いだろ? いや、きっとそうだ・・・だって、俺はこうして生きている・・・

保険外交員B:だから、先輩はもうゾンビなんですって。もう、ちゃんと私の話、聞いてくださいよ・・・まあ、いっか。

(ト書き――錯乱気味の保険外交員Aに銃口を向ける保険外交員B)

保険外交員B:それでは・・・このたびはご愁傷さまでした。良き第二の人生を、天国で送ってくださいね~!

保険外交員A:お、おい・・・や、やめろ・・・やめろーっ!

(ト書き――銃声が響いてエンド)

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【終】



「魔女」に魅入られた、憐れな少年の独り言。

男性=ヘンゼル、魔女・グレーテル=女性の2人劇を想定してますが、3人で演じても、1人で演じても楽しいかと思います。

キャラクターの基本モチーフは「ヘンゼルとグレーテル」ですが、年齢性別はお好きなように設定してください。

グロ・サイコ・殺人・厨二病要素満載ですのでご注意。


【形態】朗読劇


【上演時間】約10~15分程度


【登場人物】

・ヘンゼル

妹思いの兄


・グレーテル

兄が大好きな妹


・魔女

魔女の森の奥に住む妖艶な女

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ヘンゼル:僕の名前はヘンゼル。妹の名前はグレーテル。

ヘンゼル:本当のお母さんはとっくの昔に死んでしまって、今の母親は最近父さんが連れて来た。

(一呼吸置く)

ヘンゼル:父さんはまるであの女の奴隷だ。

ヘンゼル:だから僕は意地悪な継母から可愛い妹を守らなければいけない。

ヘンゼル:そしてお父さんの目を覚まさせなければならない。

ヘンゼル:でも・・・父さんは僕達を裏切った。

父:「あいつには俺にしかいないんだ。ヘンゼル、おまえも男なら・・・いつかは分かるよ」

ヘンゼル:そう力無く笑って・・・あの女の言いつけ通りに、僕達を深くて暗い魔女の森に捨てた。

グレーテル:「もう私達、おしまいね」

ヘンゼル:月すらも無い、暗闇の中。狼の遠吠えに震えながら泣きじゃくるグレーテルを僕は抱きしめる。

ヘンゼル:「心配しないで、グレーテル。すぐになんとかする方法を見つけるよ」

グレーテル:「でも、これからどうやって森を出るの?」

ヘンゼル:「大丈夫。神様は僕たちを見捨てたりはしないさ」

ヘンゼル:僕達は抱き合って眠り、そして祈った。

ヘンゼル:ああ、神様。貴方が本当にいるのならば・・・どうか、僕達を助けてください。

ヘンゼル:せめて僕の大切な妹だけでも助けてください。

ヘンゼル:猟師か、騎士様か、それとも優しい夫婦か・・・誰でも良い。どうか哀れな僕達に助けの手を差し伸べてください。

(一呼吸置く)

ヘンゼル:けれども何日経っても、誰も・・・僕達の前に現れなかった。

ヘンゼル:空腹と疲労と絶望で死にそうになった、そんな時に僕達の前に飛び込んできたのは――小さな家。

グレーテル:「・・・なんて美味しそうなおうちなのかしら」

ヘンゼル:その家は普通の家じゃなかった。屋根はパン、壁はケーキ、煉瓦はクッキー。そして、窓は飴細工の――お菓子の家だった。

ヘンゼル:「ああ・・・我慢できないっ!」

ヘンゼル:パンの屋根を一口頬張ると僕は叫んだ。

ヘンゼル:「・・・おいしい! グレーテル、お前は窓を食べてごらん、すごく甘いよ」

グレーテル:「本当だわ! ほっぺがとろけて落ちちゃいそう・・・」

ヘンゼル:必死に手を伸ばして屋根を食べ、グレーテルは窓にかがんでガラスをかじる。

ヘンゼル:僕達は家の中から女が現れた事に気付かないくらい、目の前のお菓子に夢中だった。

魔女:「・・・おや、あんた達、どうしてここに来たんだい? さあさ、お入り、私の家においで」

ヘンゼル:女は僕達の手をとり、小さな家の中に案内する。

ヘンゼル:テーブルにはミルクと砂糖がたっぷりかかったパンケーキと香りの良い葡萄酒に果物や木の実、鳥の丸焼き・・・見た事のも無いご馳走の数々が並んでいた。そして清潔できれいな白いシーツでおおわれた可愛い2つのベッド。

ヘンゼル:僕とグレーテルは天国にいる気分だった・・・この時までは。

(一呼吸置く)

ヘンゼル:女の正体は性悪な魔女だったのだ。

ヘンゼル:森の奥ににお菓子の家を建て、僕達の様な捨てられた子供たちを誘い、そして・・・その子供を「食べる」恐ろしい魔女。

(一呼吸置く)

魔女:「・・・ああ・・・美味しい。おまえのような、若い子は・・・私の素敵なご馳走だよ」

ヘンゼル:魔女は赤い唇を舐めるとそう言って僕の体に舌を這わせ、僕を飽きるまで・・・貪り(むさぼり)食べる。

ヘンゼル:それから魔女は僕を部屋に閉じ込め、カギを掛けた。

魔女:「ヘンゼルはわたしのものだ・・・残念だね、グレーテル」

ヘンゼル:扉の向こうで魔女の意地悪い笑い声が響く。

ヘンゼル:けれどもグレーテルの声は聞こえなかった。

ヘンゼル:それから毎晩、魔女は鍵の掛かった僕の部屋を訪れ、僕の指を、顔を、全身を・・・満足するまで美味しそうに食べていた。頭のてっぺんから、足の先まで全て余すところなく、全部。

(一呼吸置く)

ヘンゼル:だけど、ある日。

グレーテル:「ヘンゼルっ! 私達、助かったわ!」

ヘンゼル:勢い良く扉が開くと、息を弾ませ、頬をバラ色に染めたグレーテルが部屋に飛び込んできた。

グレーテル:「魔女をかまどの中に押して、鉄の戸を締めて、かんぬきをかけて・・・火をくべたのよ。魔女はとても恐ろしい叫び声をあげたわ。そして、かまどの中でみじめに焼け死んだ!」

ヘンゼル:「焼け・・・死んだ? グレーテルが、殺したのか?」

グレーテル:「ええ、そうよ! ・・・ふふ、いい気味だわ。お兄ちゃんを独り占めしようとした罰よ!」

ヘンゼル:魔女を殺した事を誇らしげに語り、僕に抱き付き、歓喜のキスをするグレーテル。

ヘンゼル:そこには泣き虫で気が弱くて恥ずかしがり屋の、かつてのグレーテルの面影はどこにもなかった。

ヘンゼル:――彼女は、本当に僕の妹のグレーテルなのだろうか?

ヘンゼル:「・・・とにかく。魔女が死んだのなら・・・それなら・・・帰らなくちゃ」

グレーテル:「帰る? どこへ?」

ヘンゼル:「決まっているだろ。魔女の森を抜けて、僕達の家に・・・」

ヘンゼル:僕の言葉にグレーテルは笑う。

グレーテル:「何を言っているの、お兄ちゃん。ここが、私達の家よ――私とヘンゼルの、ふたりだけの家」

ヘンゼル:その時。

ヘンゼル:僕は、気付いてしまった。

ヘンゼル:グレーテルの僕を見る目が、魔女の目と同じ事を。

ヘンゼル:そして、僕はもう一人の新しい魔女に魅入られてしまったことを。

(一呼吸置く)

ヘンゼル:暗くて深い魔女の森。

ヘンゼル:僕達はこの森を抜けられなかった。

ヘンゼル:僕達は・・・お菓子の家の甘い蜜に溺れて身動きが取れないまま、死んでいく。

ヘンゼル:こうして僕は魔女と共に、朽ち果てる。

父:「あいつには俺にしかいないんだ。ヘンゼル、おまえも男なら・・・いつかは分かるよ」

ヘンゼル:ああ、そうだね。

ヘンゼル:僕もお父さんと同じだ。

ヘンゼル:僕も・・・もう、「魔女」から逃げられない。

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【終】

乙女はどんな世界でも無敵なの。

白ウサギに執着するストーカー気質のアリスの独り言。

グロ・サイコ・殺人・厨二病要素満載ですのでご注意。


【形態】朗読劇


【上演時間】約10~15分程度


【登場人物】

・アリス

基本モチーフは「不思議の国のアリス」。

年齢性別はお好きなように設定してください。

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アリス:ある日、ピクニックの途中に出会った1匹の白ウサギ。一目見て、私はあなたを好きになったわ。

(呼びかける様に)

アリス:なんて可愛い白ウサギさん! ねえねえ、白ウサギさん。そんなに急いでどこに行くの?

アリス:ねえねえ、白ウサギさん。私の声を聴いて。

アリス:ねえねえ、白ウサギさん。私を見て。

アリス:ねえねえ、白ウサギさん。

(耐えきれない様に)

アリス:――私を無視しないで!

(一呼吸置く)

アリス:――かくして私は白ウサギを追いかけて、ワンダーランドに迷い込む。

アリス:この世界は全てがデタラメで全てがホントウ。

アリス:小さくなったり、大きくなったり、首も伸びたり。私の体はめちゃくちゃよ。

アリス:でも私はくじけない。

アリス:奇妙で無礼な人達との何でもない日を祝うお茶会も。

アリス:不気味な芋虫が誘うままに怪しいキノコをかじるのも。

アリス:これも全部白ウサギさんと合うための試練。

アリス:あなたを振り向かせるためなら、私、いくらでも耐えられる。

アリス:いくらでも乗り越えてみせるわ。

アリス:そして、やっと追いついた場所はハートの王様と女王様の玉座の前。

アリス:布告役(ふこくやく)の白ウサギさんがラッパを吹いて開廷を告げる。

アリス:被告人はハートのジャック。女王のタルトを盗んだ罪で死刑は開廷と同時に確定しちゃった。

アリス:・・・こんなインチキな裁判、聞いた事ないわ。さあ、行きましょう白ウサギさん。

アリス:こんなバカげた裁判なんて抜け出して、私と楽しく遊びましょう? 第一、ハートのジャックが女王のタルトを盗んだなんて、私にはどうでも良いもの。

(一呼吸置く)

アリス:乱入した私に、怒ったハートの女王が声高らかに宣告する。

アリス:「この者の首をお刎ね!」

アリス:私に一斉に飛び掛かるトランプ兵。でも私は彼らをフラミンゴで薙ぎ払う。

アリス:・・・ふふ。ふふふ・・・ああ、おかしい。チェシャ猫は言ったわ。

アリス:「どこに行きたいかわからないなら、好きな道を行けばいい。どの道を選んだってそこにたどり着けるんだから」って。

アリス:公爵夫人も言ったわ。

アリス:「世界を動かすものは、ほかならぬ愛」だって。

アリス:この世界では私が選ぶものは全て正解。そして私の愛が世界を変えるの。

アリス:だから私は決めた。この世界をハンプティダンプティみたいに粉々に砕いちゃおう。そして私は女王になるのよ。

アリス:――赤い薔薇よりも、血よりも真っ赤な「赤の女王」に。

(一呼吸置く)

アリス:そうすれば、この世界は私の物。そして・・・白ウサギさんも私のモノ。

アリス:だから。白い薔薇を赤く塗るペンキは――あなたの血よ、ハートの女王。

(一呼吸置く)

アリス:フラミンゴは死刑執行人の剣に早変わり。鮮やかにハートの女王様の首をはね、ハートの王様の首を刎ね、ついでに傍聴人の首を次々と刎ねる。

アリス:そして私は真っ赤に染まった玉座の前。緋色の世界の住人は私と、白うさぎさんあなただけ。

アリス:怯える白うさぎさんの可愛らしさに私の頬は思わず緩む。

アリス:ああ、私の可愛い白ウサギさん。やっと私を見てくれた。やっと私の声を聴いてくれた。・・・ふふ、そんなに震えないで。

0:(一呼吸置く)

アリス:そして私は白うさぎさんをぎゅっと抱きしめる。

アリス:ああ、やっと捕まえた。私とずっと一緒にこの世界にいましょう。

アリス:そう、ずっとずっと・・・2人だけ。

アリス:ねえ白うさぎさん。私から逃げ出そうなんて・・・もう思っていないわよね?

アリス:私はチェシャ猫みたいにニイと笑った。

(一呼吸置く)

アリス:また逃げ出したら――あなたの首も刎ねちゃうわよ?

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【終】