「弊社ではゾンビの皆様の人権を尊重し、生きている人間と同じ平等の権利を保障しております」
ゾンビウィルスが蔓延し、人間が死後0.001%の確率でゾンビ化してしまうのが日常となった世界。
そんな世界のある保険会社の外交員の会話のブラックコメディ。
性別不問、一人称変更、アドリブ、セリフ改変どうぞご自由に。
お好きなように解釈して思いのままに演技して頂ければ幸いです。
【形態】二人芝居
【上演時間】約15~20分程度
【登場人物】
■保険外交員A
真面目で皮肉屋。保険外交員Bの先輩・男性
※セリフの一人称はお客様に対して「私」、Bに対しては「俺」ですが女性で演じる時は「私」に変えても問題ありません。
■保険外交員B
あまり物事を深く考えない今どきの明るい子。保険外交員Aの後輩・女性
※セリフの一人称は「私」ですが女性で演じる時は「俺」に変えても問題ありません。
※どちらも性別不問
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(ト書き――保健会社の営業部。社員2人が電話で話している。話す相手はそれぞれ別の相手だが話す内容はほぼ一緒、交互にセリフをテンポ良く話していく)
保険外交員A:はい! 大変お待たせいたしました・・・はい、つまりお客様は・・・最近お亡くなられた、ゾンビという事ですね。
保険外交員B:このたびはご愁傷様でした。ただそうなると・・・保険金は難しいですね。弊社の規定では、ゾンビの皆様は適用外でして。え? 話が違う?
保険外交員A:でも「死亡保険」とは生きている人間でなく、死んだ人間だけ適用するものですよ?
保険外交員B:死んでいる、って? はは、ご冗談を。
保険外交員A:だって・・・こうして私と話しているという事は、生きている証拠じゃないですか。え? 体は死んでいる?
保険外交員B:まあ、確かにそうですけどね。今は死後硬直やドライアイスなんかでかちんこちんですが、そのうちお身体はぐんにゃり、皮膚は腐り落ち、異臭を放ち・・・もって2~3年ってとこですかね。
保険外交員A:ああ、そんなに怖がらないで。ご安心ください、ゾンビは朽ち果てながらだんだんと自我が無くなるそうですよ。そして、ボロボロになって体も意識も土に還る。
保険外交員B:つまりは意識が無い状態での消滅なんで、恐怖心はきっとゼロ。いや~、自然の摂理って感じですねっ!
保険外交員A:まあ・・・なかには少しでも長く生きたい、状態を保ちたいとエンバーミングをされるゾンビの方も少なくはないですけどね。
保険外交員B:でも、メンテナンスも必要だし・・・何よりも高額です。掛かる費用はエステや美容整形の非じゃないですよ。
保険外交員A:それを受けたいから保険金が欲しい? 戸籍上は死んだままだし、死亡届もあるから保険金は下りるだろって? ははっ、いえいえ、下りませんよ。
保険外交員B:弊社ではゾンビの皆様の人権を尊重し、生きている人間と同じ平等の権利を保障しておりますので!
保険外交員A:ですので・・・再三お伝えしている通り、ゾンビの皆様には死亡保険は適用されません。
保険外交員A:第一お客様はこうして私と意思の疎通をしているじゃないですか・・・普通の人間と変わらずに、ね。
保険外交員B:なので当保険会社はあなたを「生きている」と判断し、死亡保険の支払いを
保険外交員A、保険外交員B:いっさい拒否します!
保険外交員B:では入院保険? ふふっ、どこも怪我も病気もしていないし、これからもする予定はないじゃないですか? だってお身体は死んでいるんですから。
保険外交員A:そもそも感染衛生上の観点からゾンビが病院に入院するどころか、立ち入る事すら出来ないのが現状です。
保険外交員B:え? 裁判をする? 良いですよ、でも裁判が決着するよりもお客様の遺体・・・いいえ、お身体が痛むのが早いと思いますけどね~
保険外交員A:弊社が生きる権利を認めない? いえいえ、ちゃんと認めていますからお支払いが出来ないと言っているんですよ。
保険外交員B:確かに死亡届を提出してしまうと会社に復職出来ませんし、年金も生活保護も出ませんから蓄えが無い人は大変だと思いますけど~
保険外交員A:生活が不安だというのであれば、ゾンビ経済特区への引っ越しをご検討するのはいかがでしょう?
保険外交員B:政府の用意したゾンビのためのゾンビ経済特区! そこでならゾンビでも就学・就業が可能で生前のような送る事が出来ますよ。
保険外交員A:・・・と言っても最低限の生活を、ですけどね。
保険外交員B:でも、引っ越したらちゃんとゾンビ手当はでますよっ!
保険外交員A:まあ、雀の涙ほどですけどね。
保険外交員B:きっと、仕事もありますよ!
保険外交員A:肉体労働や劇薬取り扱いなんかの普通の人間じゃ出来ないような激務ばかり。キツイキタナイキケンシヌの3K(サンケー)ならぬ、3K1S(サンケーイチエス)ですけどね。
保険外交員B:ま、お客様ならきっと、大丈夫ですって。
保険外交員A:こんなことなら生き返らなければ良かった? そんな事おっしゃらないでください。知ってます? 死後、人間がゾンビ化する確率。
保険外交員B:なんと0.001%! 1000人に1人の確率なんですよ! それって、すごくないですかぁ?・・・え? じゃあ、おまえもゾンビになりたいかって? あは、あはは・・・ご冗談を。
保険外交員A:とにかく! 弊社ではゾンビになってしまった被保険者様には一切の保険金はお支払いしませんのでご了承ください。
保険外交員B:・・・どうしました? そんなに大声で泣き始めて。・・・ゾンビになんてなりたくなかった? ・・・死にたい、ですか?
保険外交員A:だったら・・・自ら死を選ぶ事をおすすめしますよ。
保険外交員B:そんなの薦めるなんておまえは人間か! と言われましても・・・はい、お客様と違って人間ですよ。それにゾンビの皆様の自殺は「合法」なんです。
保険外交員A:ゾンビにも「死ぬ権利」があると法律で認められてますからね。
保険外交員A:ま、どちらにしろ、発作を抑える薬の服用は忘れないでくださいね。
保険外交員B:アレを飲まないと人を襲う様になっちゃいますから。そしたら朽ち果てる前にあっさり処分されちゃいますからね~。
保険外交員A:それでは、ご愁傷さまでした。
保険外交員B:良き第二の人生を~!
(ト書き――同時に電話を切る2人。やれやれと言った風情でため息を付く)
保険外交員A:ふぅ・・・。やっと終わった。
保険外交員B:今日も長かったですね~
保険外交員A:ゾンビになっても人間と同じ権利を求めるなんて・・・傲慢というか、強欲というか。
保険外交員B:最後まで人間らしく生きていたいって思っちゃうんでしょうかねえ~
保険外交員A:人間らしくねえ・・・悪臭と腐肉を不快を周囲にまき散らしながら? フン、おぞましい。死体に金を払うつもりなんて1ミリもないね。それに・・・
保険外交員B:それに?
保険外交員A:もし俺がゾンビになったら、その場で潔く死を選ぶ。
保険外交員B:はは、それ、先輩の口癖ですもんね。
保険外交員A:当然だろ。恥をさらしてまで生きようとは思わないし。それに、死人は人間に迷惑を掛けるべきじゃない。
保険外交員B:じゃあ・・・――はい、どうぞ、先輩。
保険外交員A:なんだ、これ?
(ト書き――保険外交員A、保険外交員Bに手渡されたものを見て驚く)
保険外交員A:・・・拳、銃?
保険外交員B:ほら、先輩。最近調子が悪いって言ってたじゃないですか。
保険外交員A:ああ・・・確かに会社に健康診断の受診をすすめられて受けてきたが・・・でも、それとこの拳銃と、何が関係あるんだ?
保険外交員B:私、さっき偶然聞いちゃったんです。人事に届いた先輩の診断の結果。
保険外交員A:診断結果?
保険外交員B:――先輩、発症しているそうですよ。ゾンビ症候群。
保険外交員A:え・・・? いや、そんな・・・確かに、体調は悪かったけど・・・でも――
保険外交員B:ゾンビになったら潔く死ぬ、って言ってたじゃないですか。ほら。頭を打てば確実に死ねますよ。
保険外交員A:う、撃てるわけ無いだろっ!
保険外交員B:ええ、今更? ・・・うーん、仕方ないなぁ、まあ先輩には生前お世話になってましたしね。ソレ、貸してください。
保険外交員A:何を、言ってるんだ? お、おいっ!
(ト書き――保険外交員B、保険外交員Aに渡した拳銃を取り上げる)
保険外交員B:何って、手伝ってあげるんですよ。
保険外交員A:て、手伝うって・・・ちょ、ちょっと待っ・・・
保険外交員B:安心してください。ゾンビになって周りに迷惑を掛けてるくらいなら潔く死ぬ、って先輩が自分で撃ったって証言しますから。死んだ先輩の面子を保つ・・・私って良い後輩だと思いません?
保険外交員A:・・・おまえ、さっきから何を言ってるんだ? は・・・何かの間違いだろ? いや、きっとそうだ・・・だって、俺はこうして生きている・・・
保険外交員B:だから、先輩はもうゾンビなんですって。もう、ちゃんと私の話、聞いてくださいよ・・・まあ、いっか。
(ト書き――錯乱気味の保険外交員Aに銃口を向ける保険外交員B)
保険外交員B:それでは・・・このたびはご愁傷さまでした。良き第二の人生を、天国で送ってくださいね~!
保険外交員A:お、おい・・・や、やめろ・・・やめろーっ!
(ト書き――銃声が響いてエンド)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【終】